永 夜 |
「眠れねぇ」 ベッドの上で何度となく寝返りを打った狼牙は自分の呟いた声が、夜気の中思いの外響いたのに少し驚いて体を起こす。 明日はいよいよ魔界孔突入だと思うと気が高ぶっていっこうに眠気が訪れてくれない。本当なら早く寝て明日のために体調を整えなければいけないことは判ってはいるのだが。 「ま、いいか」 いったん起きてしまえば行動は早い。サッサと部屋を出ると静かな廊下を歩いていく。見慣れたひとつの扉の前でひとつ呼吸をおくと軽くノックをしてみる。もしもう寝てしまっているなら……と考えたがすぐに扉は開いて狼牙を招き入れた。 「フ、眠れないのか?」 久那妓は体は小さいくせに狼牙を見下すようにして嗤う。 「ま、そんなところだ」 幼なじみで婚約者で、そしてなにより愛しいと思う女に狼牙は体裁を取り繕う必要がなかった。 「なんだか妙に興奮しちまってな」 そう言って狼牙は久那妓の幼い肢体を抱き寄せる。特に抵抗することもなく狼牙に抱かれた久那妓はクスリと笑いを漏らす。 「まるで遠足前の子供のようだな」 その通りなので狼牙はなにも言い返せず、しかしただ黙っているのも悔しいのか少しかがむようにして久那妓の口を自らの口で塞ぐことにする。 「ん……」 狼牙の舌が久那妓の唇を割ると抱き寄せられるに任せて久那妓は自らも狼牙に舌を積極的に絡めていく。 「……久那妓」 「あ、あ。だが……寝不足で力を発揮できませんでした、ではすまぬぞ」 「わかってるって」 本当に判っているんだかどうだか怪しいもんだとは思いながら、久那妓も判っているので否やを唱えるつもりはない。明日行こうとしているのは、今までのように超常能力を得ただけの学生、番長が相手の戦いではない。魔界につながる孔なのだ。現に真宿には魔界孔から無限にわき出てくる魔物の被害が相次いでいる。 「狼牙」 久那妓から狼牙の首に両腕を回す。今は幼い姿をしている彼女がそうすると狼牙の首にぶら下がっているような格好になる。 「いいのか?」 久那妓の体を支えてやりながらそんなことを尋ねる狼牙が、久那妓は愛しくて仕方がない。 「かまわない。それに、今更だ」 「たしかに、な」 今までもさんざん愛し合ってきた彼らが、今更いいも悪いもないだろうと嗤う。 狼牙はそのまま久那妓の体を抱き上げてベッドへと運ぶ。そのままベッドの縁に久那妓を座らせて、その正面に立って見下ろす。 いつまでも狼牙がそうして動かないので久那妓は自分を見下ろしている男を見上げて首をかしげる。 「どうかしたのか? その、私はどうすれば、いい?」 ベッドに座らせたのは狼牙で、久那妓から手が届かない位置まで下がっている狼牙に自分から出来ることというのが思いつかない。だいいちその場所からでは狼牙も久那妓を触ることはできないのではないか。 「服を、脱いでくれ」 「あ、ああ」 そんなことか、と久那妓が着ている服に手を掛ける。パパッと脱ごうとして腕を狼牙に掴まれる。 「もっと、ゆっくりとだ。ゆっくり時間を掛けて、俺を焦らしてくれ」 掠れたような低い声はもう充分に狼牙がその気になっていることを示しているけれど。 「おまえを……焦らすなど……」 言いながら久那妓はそっと呼吸を整えて、なるべくゆっくりと服を脱いでいくことにする。とはいえ、何枚も重ね着をしている訳ではないので時間を掛けて脱げと言われればどうやってもひとつひとつの動作をゆっくりにするしか方法がない。 そっと肩を抱くようにして袖から腕を引き抜く。そんななんでもない動作でも心がけてゆっくりすれば肌の上を布地がすべっていく肌触りが妙に気になる。しかもそんな様子を狼牙がじっと見下ろしているのだ。 「これでは、まるで……」 私の方が焦らされているようではないか。すでに息が上がってきている。恥ずかしさについ伏せてしまっていた顔を少しだけ上げて狼牙の様子を盗み見ると興奮しきった目でじっと見つめられているのに気づく。ようやく上下二枚の下着だけの姿になった久那妓を狼牙は立ったまま引き寄せた。 そのまま深く口づけていく。ぬめった舌が口腔内を蹂躙していくとそれだけでボーっと頭の中に霞がかかってしまったようになる。 全身から力の抜けた久那妓の体を狼牙はようやくベッドに横たえて、その上に覆い被さるようにして首筋に顔を埋める。 「脱いだだけで感じちまってるみたいだな」 狼牙が手のひらに収まる小振りな乳房を弄いながら言うと久那妓は小さく反論する。 「そんなことは……」 だが言葉ではそう言ってみても体は正直に反応を示している。 「そうか?」 ヘヘ、と狼牙は笑いを久那妓の耳元に送り込む。 「俺はおまえのストリップ見て興奮したけどな」 ストリップという言葉に久那妓はほほを染める。その安っぽい響きへの苛立ちと、自分がやって見せたことの存外の淫猥さに今更ながらに気づかされる。導かれて狼牙の興奮を表す膨らみへ小さな手を這わせてハッと息を飲み込む。 「……もう、こんなに……」 自分を求めてくれているのだと思うと胸がキュンとなる。まだ着衣のままの狼牙のズボンの上から膨らみにそって上下にさすると、窮屈そうにクン、と固さを増していく。狼牙はもう我慢できないとばかりに下着とともにズボンを脱ぎ去って、再度久那妓に寄り添っていく。 手のひらで乳房全体を覆うように緩やかにさすり、また指の腹で先端の果実を掠める。そうしながら顔を寄せてそっと舐めとってみる。小さくても敏感な久那妓の乳房は、そこばかりを攻めているとやがて切なそうな喘ぎが零れてくる。 「ふっ……あぁ」 もじもじと太腿を擦りあわせているのを見て取って狼牙はようやく左手を久那妓の股間に這わせた。下着の上から軽く押し込むようにして淫裂に食い込ませる。すでに愛液をたっぷり吸い込んでいるらしい生地は指に湿った感触を伝えてくる。 「んっ、く……ぅ」 力を入れずに上下にさすりながら上半身では乳首をキュッキュッと摘み上げていく。 「あ、あぁ……狼牙!」 下着の上からの愛撫では物足りないのか、切なそうに眉が顰められている。狼牙を見上げる瞳は潤んで室内灯の光をキラキラと反射する。 「久那妓……」 体勢を入れ替えると、今度は狼牙が下になって仰臥する。久那妓に体を跨がせると、狼牙の意図するところが判った彼女は黙って狼牙自身に唇を寄せていく。 「いい、ぞ」 尖端をチラリと舐めた後、躊躇いもなくその小さな口に飲み込む。何度か上下したところで狼牙は久那妓の腰を抱き寄せた。 「あっ」 狼牙の胸の上を跨いでいたはずなのに、引き寄せられたせいで恥ずかしいところが丸見えになっていることに今更ながらに気づいて久那妓は慌てて狼牙を吐き出す。 「久那妓のここ、誘ってるみてぇにヒクついてるぜ」 「あ、あぁ……こんな……」 狼牙を受け入れる膣口もその下に震える肉豆も、さらにはもっと恥ずかしい窄まりさえ晒してしまっているのだ。恥ずかしい、と思えば思うほどに体の奥からジュンと溶け出していきそうな感覚に震えてしまう。 誘われるように、狼牙はまず濡れ光っている愛泉へと舌を伸ばした。同時に真珠を軽く抓むと抑えきれない悲鳴のような声が漏れる。 「こっちも、しゃぶってくれ」 下から突き上げるように肉欲の塔を揺らすと、久那妓はひとつ深呼吸をしてゆっくりと舌を這わせていく。根本を指で支え、先端を丸く舐めてくびれの部分に尖らせた舌先を震わせながら辿っていく。与えられる強すぎる悦楽をやり過ごそうと目の前のモノへの奉仕に熱がこもる。 「んっ……ふぁ」 ジュプジュプと淫猥な水音が響く。 狼牙は、次に舌のかわりに指を二本揃えて久那妓の中に突き刺した。柔らかくとろけた秘肉はなんなく狼牙の指を受け入れていく。後から後から湧き出てくる淫水を掻き出すよう、乱暴なくらいに掻き混ぜる。 「んっっ、く……あぁっ」 なんとか狼牙のモノを口に含んではいるが、久那妓はもう狼牙の上で喘ぐばかりだ。それに気をよくした狼牙はサービスとばかりに小さな窄まりに舌を伸ばしていく。 「ひっ! ろ、狼牙、そこはっ」 「可愛いぜ、久那妓」 「なっ……あ、ああぁっ」 初めて触れられるその柔らかい感触に嫌悪ばかりではないなにかを感じて久那妓は一気に絶頂に押し上げられてしまう。 「……」 突っ張るようにしてイッた後ぐったりとなった久那妓を下ろして、ベッドに横たえると狼牙は上から見下ろして優しくほほえむ。 「久那妓」 「ん」 力の抜けた久那妓の脚を肩に担いで、自身をゆっくりと進めていく。 まだヒクついている肉襞を掻き分けるようにしてすべてを埋め終えると、狼牙は久那妓の躰躯をきつく抱きしめる。 「愛してるぜ、久那妓」 「……ああ、私もだ」 狼牙は自身を埋めたままユルユルとした快感を愉しむつもりなのか、久那妓を見つめたまま動こうとしない。 「狼牙、ひとつ、聞いていいか?」 「ああ、いいぜ」 「なぜ、ここへ来た?」 静かな久那妓の表情を見下ろして、狼牙は軽く眉を顰める。 「眠れなかった、って言わなかったか?」 「そうではない。お前には女がたくさんいるだろう。なぜ、私のところなのかと聞いているんだ」 ああ、と狼牙は頷いた。 「それはな……」 しかし狼牙の言葉は続かない。かわりに激しい抽挿が開始される。肉と肉がぶつかる音が響いて、久那妓の身体も翻弄されていく。 「あ……っく」 いつも以上に激しくて、ついさっきイッたばかりなのにすぐに頂上まで引き上げられてしまい久那妓は呼吸さえままならない。 「んっ」 ズンッと最後に一突きされて最奥に熱いモノを感じたと同時に久那妓は意識を手放した。 「ん……」 目を開けると真横に狼牙の顔があった。 「目ぇ、覚めたか?」 狼牙の両腕に大事そうに抱かれているのがわかって久那妓は頬に朱を乗せる。気を失っていた間に後始末さえ終わらせてくれたらしく、あれほど乱れたというのに痕跡は残っていなさそうだ。 「さっきの、な」 唐突に切り出した狼牙の言葉に久那妓が何のことだ?と言うように狼牙を見上げる。 「なんでお前のところに来たかってやつだ」 「……」 「あいつらはみんな、俺の女だ。俺にはあいつらを幸せにしてやる義務がある」 「そうだろうな」 少し納得のいかないモノを感じながらも、狼牙の彼女たちに対する義務という意味では確かにそうだろう、と久那妓も思っている。 「だけどな、久那妓」 ギュッと彼女を引き寄せて自分の胸の中に閉じこめながら、狼牙は言葉を切る。 「なんていうか、俺を幸せにしてくれるのは、お前なんだよ」 久那妓がびっくりして顔を上げると、少し照れたようにそっぽを向いている狼牙が映った。 「だから、今日、眠れねぇって思った時、ここに来ることしか考えなかったよ」 「では……」 「ああ、もし久那妓が眠っちまってたらおとなしく部屋に戻るつもりだった」 「狼牙」 狼牙の言葉は、拙いけれどもそれでも彼が抱く他の大勢の女とは久那妓が違うのだと言っている。なにが自分と他の女たちとを隔てているのかはわからなかったが、それで充分だった。女に甘く、だらしない、そんな狼牙を確かに自分は愛しているのだから。 「狼牙、どうだ、少しは眠れそうか?」 久那妓が唐突に話題を変えたのへ、狼牙は甘い笑みを見せる。 「そうだな、今なら……眠れそうだ」 久那妓を腕の中に抱きしめたまま、目を閉じる。 「久那妓の……ニオイがする……」 落ち着いた深い呼吸が、寝息に変わるのに時間はかからなかった。久那妓はそれを確かめると狼牙の胸にスリと頬を寄せて、そして自分も目を閉じていった。 fin |
再録です。決戦前夜。 狼牙に関して言えば、やっぱり久那妓は特別なんだろうと思います。他の誰かとは較べられない、他の誰かでは埋められない存在。だから自分の女はたくさんいても、誰が最愛の人を見つけて自分の元を去っていっても祝福して別れると思うんですよね。でも久那妓だけは自分に縛り付けてしまうと思うの。久那妓だけが特別。そんな感じ。 |