あの雲の上には |
「雨……」 朝起きて、窓を叩く音にがっくりと肩を落とした。 「やまない、よなー?」 昨日の夜確認した天気予報ではこのあたりは一日中雨だ。雨が上がったにしても、この厚い雨雲では、世紀の天体ショーとも言える日蝕を拝むことは難しい。部分日蝕はものすごく珍しいものではないかも知れないけど、今年は日本で皆既日食が見られるってことで、このあたりでも7〜8割欠けるっていうから、結構楽しみにしてたんだけど。 「日蝕、見られそうにないね」 「乃絵美……」 窓を見上げてた俺の隣に、いつの間にか乃絵美も並んで空を見上げている。 「時間的には、もうすぐだな」 もしかしたら、そろそろ欠け始めているのかも知れない。 「うん、雲で見えないけど、お日様が欠けてるんだよね? 最大まで欠けたら少し暗くなるのかな?」 「ただでさえ雨が降ってて暗いから、わかんないかも知れないけどな」 「でも、沖縄とか屋久島とかは天気いいんじゃない? テレビで中継とかしてるかも知れないよ?」 「そうだな、ここで雨空見上げてるより、テレビ中継のほうがきれいに見えるかもな」 言いながら、乃絵美も俺も、窓から離れようとしない。乃絵美の小さな頭が俺の肩にそっと触れる。 じっと、ただ手をつないで、なにもない雨の落ちてくる厚い雲を見上げていた。 乃絵美の細い指に、この日用意していたリングを通す。皆既日食に見られるダイヤモンドフレアのような輝きはないけど、「ずっと」を形にしたつもりの。 「お兄ちゃん……」 厚い雲に覆われてるように見えるけど、その上では太陽が地球を照らし続けてる。 「乃絵美、愛してるよ」 fin |
日蝕ネタです。こっちは、雨で見られないバージョン。実際東京あたりでは見られなさそう(T-T) やはりオチも何もないですが、すでにそんなものを期待してる人はいないよね? そう言えば、結婚までさせてるのに、指輪あげるシーンとか書いたことなかったような気がしました。どうだったかな? |