乃絵美 七夕
「そんなぁ?」
 突然声をあげた乃絵美にびっくりして振り返る。
「どうした? 急に」
「あ、お兄ちゃん。だって週間予報で7月7日が雨だっていうんだもん」
 しょんぼりした口調で乃絵美が言う。
「……あのな。だいたいここ10年の統計で見ても7月7日は雨の方が多いんだよ」
 なにを言い出すのかと思ったら。呆れたように言ったら乃絵美は不満そうに頬をふくらませている。
「でも、でもせっかくの七夕なのに」
「ま、仕方ないだろ?」
 それはそうなんだけど、とまだ恨めしそうにテレビを睨んでいる。
「でも1年に1度しか逢えないんだよ? なのに雨なんて……」
 ああ、織り姫と彦星のことか、と納得する。
「天の恋人たちは1年に1回逢えるだけで我慢できるんだな」
 俺にはとてもじゃないけど耐えられそうにない。ていうか、耐えられないからこそこんな形で家を出ているんだけど。
「そうだね。私にも無理だよ……お兄ちゃんが側にいないなんて考えられない」
「もっとも家にいても一緒にいるだけならいられるんだけどな」
 苦笑と共に言ってみる。ただ側にいるだけならいくらでもいられるんだ。兄妹だから。シスコン、ブラコンって思われはするだろうけど。てか友達とかには思われてるけど思い切り。でもまさか実は偽装結婚してる、なんて絶対言えない。だから友達は家には絶対に連れてこないことになってる。3人で住んでるのがそもそも内緒だし。
「……でも」
 近くにいれば余計に触れられないもどかしさを感じてしまう。どうしようもなく互いを求め合ってしまうのにただ近くで見ているだけなんて耐えられない。
「乃絵美……」
 抱き寄せて、口づける。優しいキスをして、こうして乃絵美を腕の中に抱きしめているとそれだけで満たされてくる。しあわせだと感じられる。乃絵美がこうしていてくれるだけで自分の中が全てのきれいなモノたちで満ちて溢れてくるような気がする。
「……お兄ちゃん」
 乃絵美がスリ、とほほを胸にすり寄せる。
「乃絵は甘ったれだからな」
 甘えられるのがうれしいのはこの際棚に上げて、乃絵美の頭をポンポンと叩く。
「うん、私ね、お兄ちゃんで良かったなって」
 ありがとう、と口の中で乃絵美が呟く。
「ずっとずっとお兄ちゃんは私の憧れだったから」
「そうかぁ? 俺なんてたいしたことないぞ?」
「うん、だから目が眩むくらい、まぶしいってことだよ」
「……乃絵、いつからそんなに口がうまくなったんだ?」
 笑いながら乃絵美の顎を掬い上げる。ふふ、と微笑んだままの乃絵美の細いウエストを抱き寄せて口づける。
「まずいな、キスが止まらなくなりそうだ」
 冗談めかして言うと乃絵美がポッと頬を染めた。



 天の恋人たちも地上の恋人たちと同じくらい熱い愛を交わせますように。



fin 
相変わらずです。これだけ長い期間書いてるにもかかわらず乃絵美で七夕ってそう言えば書いてなかったなぁと(笑) 単にいちゃいちゃしてるだけの話も書きたいけど、どうしても血に縛られてしまうんですよね(汗)
色々の末にくっついた二人なのでもっと幸せになって欲しいんだけど……でも、まぁ、ここで悩んでしまうのも正樹だからかなぁと思うわけで。乃絵美の弱さも強さも、兄妹の後ろめたさとかそういうのも全部まとめて自分が背負ってやれればとか思い詰めてるようなところが、彼の良さかと。