ののか 七夕
「お、七夕か?」
「あ、お兄ちゃんっ」
 あまり忙しくはなさそうなレジの中で笹に短冊を飾り付けていたののかはパッと顔を上げるとうれしそうに笑顔を全開にした。
「面白そうだな」
「楽しいですよぉ? 小学生の工作の時間を思い出します♪」
 ののかが言うと本当に楽しそうに聞こえるから不思議だ。色紙を細く切ったものを輪っかにしていくつか繋げたり、短冊はレジの端っこに置いてあって自由に書いてもらってるらしい。すでに飾り終わった笹を見ると、小学生らしいきっちゃない字が並んでいたりするのが微笑ましい。
「ま、せっかく楽しんでるのに仕事取り上げちゃかわいそうだから」
 掃除でもするかと軽くウィンクして見せると、ムムムと眉間に皺を寄せる。そんなに言われるほど楽しそうにしていただろうかと自分を振り返っているみたいだ。ともあれ、ののかが楽しそうにレジの中で作業しているのを横目で見ながら掃除機をかけてモップをかける。客があまりいない内に棚の整理とかもやっちゃいたいし。
「できたぁ! できましたよ!」
 ピッと敬礼して飾り付け終了を報告してくれる。
「おお、なんか思ったよりずいぶん立派だな」
 立てかけた笹はレジ台の上にあった時よりも葉が広がって結構なボリュームになっている。それを入り口付近に立てて、少し小さめのモノをいくつか陳列棚にもさすのだと、ののかがうれしそうに言う。
「ついでだからお兄ちゃんも一枚書きますか?」
「ん?」
 短冊を差し出すののかに、そうだなと頷いて受け取ると少し考えてペンをとる。なにを書いているか覗きこもうとする彼女から紙面を左手でかばいながらササッと書ききってしまう。
「ホラ」
「えーと、なになに?」
 してやったり、という顔をしてののかが短冊を俺の手から奪うように取ると。
「このまま……」
 声に出してそこまで読んで止めてしまうので、「このまま? なに?」と続きを促してやる。
「ううっお兄ちゃん意地悪だ」
 頬を染めたまま睨みあげった迫力はない。
「読めないような字は書いてないだろう?」
「うっ……このまま、この……」
「この?」
「この……幸せが……つ、続きますようにっ」
 真っ赤になったまま読み切ったののかの頭をポンポンと叩いてやる。
「ののかも一緒に幸せになろうな?」
「う……」
 恥ずかしさからか真っ赤になってうつむいて。それでも、ハイと言った小さな空気の振動が伝わってきた。
「さ、仕事仕事!」
 気恥ずかしくなりそうな気分を振り払うように言うと、ののかも仕事仕事!とパタパタと駆けていく。
「いらっしゃいませー!」
 タイミング良く開いた自動ドアに向けて元気に声をそろえる。



 こんな風に一つずつの季節をキミと越えて行けたら……



fin
ののかでっす! のの可愛いよね!
元気いっぱいの彼女の、でもそれだけじゃない部分。そこがいいんだろうなぁって思う。守ってあげたくなるっていうか。だから「妹」なのかも?(笑) 私の「兄妹」にもってるイメージとかそんなのがね。兄は妹を守りたいんだけど、でも守られてるだけじゃない妹っていうのが好きなので。