調教してみようか - side友弥 -
 桜の舞い散る季節、今日、朱鷺さんは正式に凰花の当主になる。各分家から主だった人たちを集めての披露の席。
『なんでこんなことに……』
 僕は心の中でこっそりと溜息を吐く。
「今日は私と友弥さんのために集まってくれてありがとう」
『いや……僕のために来た人なんていないだろう? 両親と凜を別にしたら一人もいないと思うな』
 なぜか朱鷺さんの当主としてのお披露目の席に、僕まで一段高くなった、朱鷺さんの隣の席に座らされている。
「今、この朱鷺から友弥さんと私はめおととなる。友弥さんを私の嫁として丁重に迎えてください」
 いきなり男を嫁にすると言い出す朱鷺さんに、居並ぶ重鎮たちからザワともどよめきがおこらないのは充分な根回しがされてるからだろうなと思うと、さらに気分が重くなる。
 当主としての挨拶のはずなのに、朱鷺さんの中ではすっかりこれは結婚式、結婚披露宴となってしまっている。
 いや、僕だって朱鷺さんは好きだし、一緒に暮らせるのだってうれしいんだけど、こんなふうに堂々と『嫁』扱いされるのはやはり男としてかなり複雑なわけで……
「……女装させられなかっただけマシ、なのか?」
 小声で思わず呟いてしまった僕を朱鷺さんが振り向く。
「ん? やっぱりウェディングドレスを着たかった?」
「そんなわけないじゃないですか! 絶対着たくありません」
「そう? 似合うと思うんだけど……でも友弥さんが嫌だったなら止めて正解だったみたいだね」
「……着せる予定だったんですか?」
「それは、友弥さんは私の花嫁なのだから。でもそう言ったらみんなが止めるから」
 少し残念そうな表情で朱鷺さんが僕を見つめる。
「あ、みんなじゃないな。蓮さんはうれしそうにウェディングドレスのデザインをすると言っていたんだよね。で、私はあの喜びようを見てやはりドレスは止めたほうがいいのかなと思ったんだった」
「お、思いとどまってくれて良かったです」
 あの人ならさもありなん、と思えてしまうのが哀しい。
「さて、ではみんな宴会で盛り上がってるようだし、そろそろ抜け出してしまおうか」
 いたずらっ子のような表情で言う朱鷺さんに手を引かれて、素直に着いていってしまったのが、まさかあんなことになるとは、あの時は思わなかったんだ。



「友弥さん、今日から友弥さんは私の妻だ。本家に入るからには色々と覚えてもらわなきゃいけないしきたりとかもある」
 朱鷺さんの部屋、向かい合って座ると彼はまずそう切り出した。
 凜もついこの前までここで修行をしていたのだ。僕も頑張らなきゃ、と表情を引き締める。
「というわけで、まずは調教、してみようか」
「……は?」
 ニッコリと笑った朱鷺さんにあっという間に押さえ込まれてしまう。
「えっと……なんでこんな格好?」
 ステンと後ろに転ばされたかと思うと、紐で両手を背中でひとまとめにくくられてしまう。
「ん? 調教……というか、躾?」
「しつけ? えっ! ちょっ、調教!?」
 『チョウキョウ』という音がようやく『調教』と結びついて、慌てて逃げようとするけど、腕を縛っている紐は着物の着付けとかに使うようなものなので、ひどく食い込んだり痛んだりするわけじゃないけど、伸びない素材なのでちょっとやそっとじゃ外れそうにない。
「うん、そう。新妻と言ったら調教でしょう?」
 ニッコリと笑う朱鷺さんの背中に黒い羽根の幻まで見えてしまうような、そんな表情。
「友弥さんには、妻として私の好みを覚えてもらいたいしね」
「こっ好みって……その……そういう趣味があるとか?」
 もし、そうだと言われたらどうしよう、とビクビクしながら朱鷺さんを見上げると、クスリと笑われた。
「ふふ、大丈夫。痛いことや友弥さんが嫌がるようなことがしたいわけじゃないよ。ただ、そんなふうに、なにをされるんだろうって涙目になってる友弥さんは可愛いなって思うけどね」
 ス、と朱鷺さんが手の甲で僕の頬を撫でる。
「ああ、畳で擦れると傷になってしまうね」
「や、あの……これを解いてくれれば」
 男なのに姫抱っこされて、すでに用意されている布団の上へと降ろされる。背中で腕を括られているのでうまくバランスをとって座れない僕を朱鷺さんがそっと支えてくれる。
「んー、解いてあげてもいいけど、せっかく新妻調教っていう愉しい設定だし……ね?」
「……ねって言われても」
 首をかしげて可愛らしくしたつもりかなにか知らないけど、言葉は丁寧で柔らかいのに妙に強引なところがいかにも朱鷺さんらしい。
「だんな様に口づけをしてくれるかな? 友弥さん」
「んっ」
 法律はどうだろうと、一族の中では今日から結婚した夫婦として扱われるわけで。僕だってちゃんと朱鷺さんのことが好きだから、キスくらい自分からできる。伸び上がるようにして口唇を重ねる。
 チュッ……チュク……チュッチュッ
 口唇を啄むようにしながらキスを少しずつ深くしていく。そうしながら朱鷺さんの手がゆっくりと僕の服を剥ぎ取っていくのをボーッと見ていた。
「可愛いよ、友弥さん……もうこんなになって」
「あっ」
 朱鷺さんの指がそっとズボンの前を撫で上げる。そこはすでに少し勃ち上がりかけていて、あらためてキスだけでそんなことになっていると知らされて羞恥に頬が染まる。
「可愛いけれど、友弥さんも少し我慢することを覚えなければね」
 ズボンと下着も剥ぎ取られて全裸にされると、服を汚してしまうことがなくなったのをホッと思う気持ちと、何度も見られているハズなのにそれでも浅ましい欲望を見られてしまうことの羞恥とで体温が上がっていく。
 朱鷺さんの、男にしては細い指が僕の中心に触れる。
「痛っ……え? ヤっ……なにをっ?」
 まだ半勃ちのそれの根本を朱鷺さんは細い紐でキュッと縛り上げてしまう。
「これでイきたくてもイけなくなったよ。友弥さんは快感に弱いところがあるからね、主人として私がきちんと躾けてあげるからね」
 言いながら朱鷺さんの指がペニスに絡みついてきてそのまま上下しだすと、嫌でも縛られた根本がズキズキと戒めの存在を主張しはじめる。
「気持ちよくなってきた? ふふ、こっちもヒクヒクしているよ」
 いつも朱鷺さんを受け入れている場所に一瞬だけ指が触れる。
「あ……」
 すぐに離れてしまった指に、思わず縋るような声が出てしまう。
「友弥さん……わかるね?」
 朱鷺さんが突然立ち上がって、僕の頭を上から撫でる。朱鷺さんの中心がちょうど目の前で袴を下から押し上げている。そっと袴の上からキスをすると、まるでいい子だとでも言うように頬を撫でられた。
 手は使えないから、朱鷺さんが自分で取りだしてくれたモノに、まずは口唇で触れる。根本に近い位置からゆっくりと先端に向かってキスを滑らせていく。
「んっチュッ……チュプ……チュッチュッ」
 丸くなった先端の手前、口唇で啄むように何度もそこだけに繰り返しキスをしていたら焦らしているつもりがなぜか僕までズクンと疼いてしまう。
「気持ちいいよ、友弥さん……でもそろそろ、その可愛い口に私を迎えて欲しいな」
 朱鷺さんの指が僕の濡れた口唇をなぞっていく。普段はそんなこと思いもしないのに、そんなふうに触られると、口唇はまるで剥き出しの粘膜みたいでそれだけで熱い吐息が漏れるのを抑えられなくなる。
「あ……朱鷺さん」
 朱鷺さんの先端は少し濡れていて、僕のキスに感じてくれていたことがわかる。
「んんっレロっ……朱鷺さんの味……チュッ」
 舌を伸ばして尖端をゆっくりと舐めてから、少し顔を上げて口の中に朱鷺さんを迎え入れていく。
「んっいいよ……友弥、続けて」
 少し掠れたような声は、朱鷺さんが感じてくれているってことだ。
「ジュっ……ジュプ、んっ……ジュプジュプ」
 少しずつ頭を前後させるスピードを上げていく。熱い吐息が頭上から落ちてきて、このまま口の中に朱鷺さんを迎え入れようとさらに深く咥えようとした。
「もう、いいよ」
「え……気持ちよく、なかった? 僕……まだ巧くできなくて……」
 突然腰を引いて僕の口からペニスを抜き出してしまった朱鷺さんに、僕はなんだか情けなくなってしまう。いつも朱鷺さんがしてくれるばかりで、僕が朱鷺さんになにかをしてあげることはほとんどない。口での奉仕も、滅多にさせられることはないし、それは僕がヘタだからだ。
「そんなことないよ、すごく気持ちよかった……でも今日は新婚初夜だからね。私は友弥さんの中にだしたい」
「あ……」
 そっと、布団に引き倒される。それでも腕が痛くないように横向きにしてくれるのは忘れない。
「ここに……溢れるくらいに私を注いであげる」
 半分うつぶせ状態で脚を大きく広げられて、そっと入り口に指が這う。
「あ……朱鷺、さん……んんっ」
 意地悪な指は敏感な襞をくすぐったかと思うと、内腿へと逸れて行ってしまう。
「友弥さん、好きだよ」
 朱鷺さんの口唇が僕のうなじへと落ちてくる。優しく背中をすべる感触に全身が震える。
「あ……朱鷺、さっ……僕もっあっ……大、好き」
 言った途端にツキンと首筋に覚えのある痛みを与えられる。これは、マーキングだ。僕は朱鷺さんのモノだ、と主張されているようで少し嬉しい。
 時間をかけてゆっくりと入り口がほぐされるのと同時に与えられる、絶え間ない愛撫でいつもならとっくに弾けているはずの僕自身は、戒められているせいでズキズキと存在を主張し続けている。
「友弥さんのココは狭いからね」
 そう言いながら指が増えて、朱鷺さんには知られ尽くしている僕の中の感じる箇所を擦られたら、もうじっとしてるなんてムリだ。
「あっもう……も、いいから……挿れてっ」
 早く朱鷺さんの熱いモノで思い切り突いて欲しかった。感じる部分ばかりを擦っていく指には、あの熱さも凶暴さも足りない気がして。
 朱鷺さんは、最後にグルリと内部を抉るように捩って指を引き抜く。
 一瞬の喪失感に、僕のソコがヒクヒクともの欲しそうにしてしまうのがいたたまれないけれど、それも一瞬のことで、朱鷺さんが押し当てられるのを感じる。
「グッ……あっ、ああっっ!! んんーーーっ」
 指のかわりに一気に押し入ってきた熱い塊で一番感じる場所を抉られて頭の中が真っ白になる。
「クッ……そんなに締めつけないで……可愛いよ友弥さん、射精しないでイッてしまったんだね?」
 ビクビクと震える背中を、背後から朱鷺さんが優しく抱きしめてくれる。
「でもまだだよ。まだ……我慢できるね?」
 灼熱の棒がゆっくりと抜け落ちていく感触に肌が震える。いっぱいに広がった敏感な部分を指の腹でなぞられるとキュッと力が入ってしまう。
 ズンッ!!
「んっ……!」
 一気に押し入ってきた朱鷺さんの熱さに煽られて神経まで焼き切れそうだ。ゆっくりとしたストライドで殊更に朱鷺さんを意識させられる。
「あっ、や……ソコは!」
「ココ? こんなに大きくして……きつく縛ったのにもうこんなに涎を垂らしてるよ。イヤらしい新妻だ」
 前に回した手で、パンパンに膨れたペニスを擦りあげると、漏らしてしまった先走りを亀頭全体に塗り込めるみたいにユルユルと指を動かす。
「あっ! ん……あっ! あっ! も……ねがっイカ……せて!」
「可愛らしいおねだりだね……でも、まだだよ、もっと我慢できるよね?」
 チュッと背中に軽いキスを落とされて、そんな軽い刺激にすら僕は全身を震わせてしまう。
「友弥さんの中は……とても熱くて、気持ちがいいよ」
 囁かれる朱鷺さんの声に隠しきれない欲情が滲んでいる。
「私を搾り取ろうとしてるみたいに……締め上げてくる」
「んっ……そんなっつもりは……あぁっ」
 ゆっくりと掻き回すように動く灼熱で、内壁を擦られていく。内側から朱鷺さんに浸食されていくみたいな不思議な陶酔感。
「あっ! あぁっ……溶けっちゃう……んっ」
「んっ……いいね、私も友弥さんの中で熔けてしまいそうだ……一緒に、溶ける?」
「ああっ、うれ、しっ……朱鷺さんも……溶けっ……る?」
「いいよ、一緒に溶けようか……もう少しだけ、我慢できる?」
 コクコクと頷くと朱鷺さんの動きが速くなる。乱暴とさえ言える激しさでペニスの根本を内側からガンガンと突かれると、もう僕は何も考えることができなくなってしまう。
「んっ!」
 熱い飛沫が叩きつけられたのと同時に僕を堰き止めていた戒めが解かれて、まるで内側から押し出されるみたいに勢いよく白濁を吐き出していた。
「あっ! あああっっ、んんーーーーっ!」
「クッ……友弥さん、友弥」
 愛しくてしかたない、そんなふうに朱鷺さんの瞳が優しく僕を見つめている。
「朱鷺さん……これ、解いて?」
「ああ、痛かった? ごめんね」
「痛くはないけど……ギュってしたいから」
 朱鷺さんが腕を解いてくれると、僕は慎重に肩を回してどこも痛めてないことを確認してから大好きな人の背中に腕を回す。朱鷺さんも僕の背中と腰をそっと抱いてくれて。
「あの……朱鷺さんには……その、特殊な嗜好が……」
「ん?」
「だから……エッSエ……とか」
 一応、確認しておかなくちゃと、モゴモゴと言うと朱鷺さんはおかしそうに僕の顔を覗き込む。
「そういう意味の特殊? 私は友弥さんが嫌がることはしたくないよ? ちょっと意地悪すると友弥さんがウルウルして可愛いなとは思うけど……縛られるのはイヤだった? もうしないって約束しようか?」
「……しなくても、いい?」
「ん? 友弥が縛って欲しいなら縛ってあげるけど?」
 ふふ、と朱鷺さんが笑う表情はイタズラをしてる時のそれ。だから、少しだけ素直になってみることにする。
「縛って欲しいわけじゃないけど……その、ホントに僕でいいのかな? って不安は、あるよ。凰花の跡継ぎを僕は産んであげることもできないし、男だし、……今はいいけどやっぱり可愛い女の子のほうがよかったって思われたら……辛いなって」
 朱鷺さんの手が僕の頭を撫でる。まるで小さな子供を慰めてるみたいな、優しい手。
「私もね、不安になることはあるんだよ、友弥さん。友弥さんは優しいし、本当はとても強くて格好いいし、可愛くてしかたないし」
 チュッと優しい啄むだけのキス。
「男女問わず実はとてももてるくせに、優柔不断でとても流されやすいから……」
「そんなことは……ないですよ? 僕なんかがいいって言ってくれるのは朱鷺さんくらいです」
 凜は「お兄ちゃん」という存在にあこがれてただけだと思うから、この場合除外だ。だから、朱鷺さんみたいな人が僕なんかのどこがよくて好きだって言ってくれるのか、今でもよくわからない。可愛いって言ってくれるけど、それは目がくらんでるだけじゃないかなって思うんだ。
「気づいてないのは友弥さんくらいだよ。だから私の友弥さんを狙う虫が寄りつかないように強引な方法で結婚までしてしまったんだけどね」
「朱鷺さんの思い過ごしですって、僕なんて地味でたいして取り柄もないし……」
「それは……まぁ友弥さんが鈍チンなのは、よーくわかってるけどね。私の求愛に流されてるだけじゃなく、友弥さんも私が欲しいんだって時々確認したくなるんだよ」
「好き……ですよ? ちゃんと。そうじゃなきゃ……あんな恥ずかしいこと、絶対許しません」
 だって、男同士で……なかなか恥ずかしくて口に出しては言えないけど、あんなことまでするのはそれが朱鷺さんだから、だ。
「そうだね。ホントにイヤだったら、友弥さんは本気で抵抗してくれる?」
「朱鷺さんだけです……僕は朱鷺さんの妻、ですから」
 真っ赤になっているのが自分でもわかる。見られたくなくて、顔を朱鷺さんの肩に埋める。
「そうだね。私たちは夫婦になったんだね」
「とっところで……その、最初に言ってたチョッ、チョウ……とか」
「ん? 調教? 友弥さんは最初から私の好みだからね、夫婦のラブラブいちゃいちゃH、ってことでどう?」
 苛めて欲しければ、いじめてあげてもいいけど? と朱鷺さんがクスクスと笑う。それは、僕が苛めて欲しいから、じゃなくて朱鷺さんがいじめっ子だからでは? と思うけれど口にはしない。その代わりに。
「うん……もっと苛めても、いいよ?」
 言い終える前に、朱鷺さんの口唇が僕の口唇に重なった。すぐに舌が攻め入ってきて、性急な程に口腔内をまさぐられる。
「今のは……友弥さんが悪い。もう出ないってくらいに搾り取られても文句は言えないよ?」
「うん、全部搾り取って……旦那様、大好き」
「友弥、愛している」
 さっきとは違い、向き合ったままで朱鷺さんが挿ってくる。腕はもうしばられていないから、僕の気持ちを全部込めて、ギュッとしがみついた。朱鷺さんの瞳には僕だけが映っている。
 幸せそうに微笑んでいる僕だけを映してくれればいい。
 来年も、再来年も、ずっと、ずっと。



fin
よくばりサボテンっす。新妻調教をテーマに(笑) 友弥sideです。