朱鷺v凜 |
いつのまにこんなことになってしまったのか、と考えるに凜は少しだけため息をつきたくなった。 「いまさら、仕方がないのかも知れませんが」 「しかたがないって……そんな言い方は少し淋しいな、凜さん」 しょぼんと、本当にそんな凜の一言でしょぼんとしてしまう朱鷺に、凜はしかし勝てないのだ。年上で、本家の次期当主で、ものすごく強くて、家事は苦手だといいながらも陰では努力を惜しまない、そんな格好いい女性が。大好きな友弥を巡って新たなライバル出現に戦々恐々としていた凜だったのに。 「だって、仕方がないじゃないですか」 少しだけ言い方が拗ねたようになってしまったかも知れない。 「うん、ゴメンね」 朱鷺が凜の頭をポンポンと撫でてくれる。 「ウー……」 友弥を見て学習するのか、朱鷺の凜の扱いはどんどん彼のそれに似てくる気がする。でも、朱鷺の手は嫌いじゃない。というか、もう少し正確に表現するなら、かなり好きだと思う。兄の手のように大きくはないが同じように優しい。 「でも、私は凜さんが好きだから」 「……も、……けど」 「うん?」 小さく呟くように言った凜の声は朱鷺には聞こえなかったようで、聞き返されるが二度は言いたくないと思ってしまう。だって、私も好きですけど、なんてやはり婚約者候補だった兄にならともかく、同じ女性に言うのはなんだかとても恥ずかしい気がしてしまうのだ。 なによりも、あんなに好きだったお兄ちゃんのことを「好きだった」と過去形で思ってしまうこと自体が凜には戸惑い以外の何物でもない。 「凜さん……」 朱鷺が頭を撫でてくれるのにフニャリと身体の力を抜いてもたれかかる。友弥と比べると小さい朱鷺は、それでも凜を暖かく包み込んでくれる。肩を抱き寄せられて、額を肩に押しつけられるとサラシを巻いていても隠しきれないふくらみが柔らかい。 「なんだか……にくい」 「凜、さん?」 「この、胸が! 胸が!」 少しばかり人より不自由なサイズの胸にコンプレックスのある凜が、まるで大きな胸は敵だ!とでも言うように朱鷺の胸をポカポカと叩く。 「い、痛いよ、凜さん」 叩くのをやめようとしない凜をそのまま抱きしめ続けることが出来なくて朱鷺は少し腕の力を緩める。 「敵です!」 「凜さん? そんなことを言ってると……」 「言ってると、なんなんですか?!」 半分ムキになって凜が朱鷺を睨みあげる。 「そんなこと、言えないようにしてしまうよ?」 ど、どうやって? と口の中だけで凜は呟くが、朱鷺にニヤリと片頬だけで意地悪く嗤って凜の背後からウエストに手を掛けて抱き上げてしまう。 「わっちょっ、なにするんですか?」 「うん?」 ジタジタと凜は暴れるが朱鷺にとってはどうということもない。そんなことも凜には悔しいことこの上ないのだが、朱鷺には朱鷺の言い分がある。 「あまり暴れると落としてしまうよ? そうしたら、恥ずかしい思いをするのは凜さんだね」 落とされて痛い思いならわかるが、恥ずかしい思いをしなければいけないのはなぜか。そんなことは考えなくてもわかる。だからよけいに暴れたいのだけれど、そうしたら朱鷺が脅しでもなんでもなくその恥ずかしいことを実行してしまいそうだと思って凜はおとなしくすることを選択する。 「うんうん、凜さんはいい子だね」 「あうぅ……」 ようやくおとなしくなった凜を抱えて朱鷺が階段を上る。凜の部屋に入ると、抱き上げたままで頭上にある凜の顔を見上げて朱鷺が微笑む。 「凜さん、鍵、かけてくれるかな?」 「うう……」 イヤだけど、イヤなんだけど、でもほんの少し期待している自分もいて、凜は奥歯を噛みしめて、言われたとおり部屋のドアに鍵を掛ける。カチャッという音がイヤに響いて心臓がドキンと大きく跳ねた。 「さて、これから何をされるかは、わかってる?」 「……ううぅ」 「凜さん?」 応えようとしない凜に、朱鷺はしかし返事を強要したいらしい。 「なにって……その……」 「うん? 凜さんはこれから何をするかを言いたくないのだね?」 言わなくていいなら、言いたくない。朱鷺に、ナニをされる、なんて。 「じゃあ、まずはキス……から、かな」 凜をベッドの上にそっとおろしてから、その細い顎に指をかける。頬のラインを撫でるようにして上向かせる。くすぐったさに凜が思わず目を閉じると、朱鷺は愛しそうに柔らかく微笑んで凜にそっと口づける。 唇と唇が触れるだけの軽いキスを何度も繰り返しながら、朱鷺の手が凜をそっとベッドの上に横たえていく。完全に凜の背中がマットレスの上に沈むとチュル、と音を立てて朱鷺は舌を凜の中に忍ばせる。頬に触れる手のひらと深く重なった口唇以外には接触がほとんどないのがかえって淫靡な気さえしてくる。 「凜さんの肌はスベスベしているね」 ブラウスの下に滑り込んできた手のひらがユルユルと脇腹を撫でる。くすぐったいような焦れったいような、なんとも言えない感覚に凜は体を捩る。 「んぅ……ふ」 舌を絡め取られ擦るように刺激されて、さらに軟口蓋を責められて思わず声が漏れる。 「ふふ、凜さん、可愛い♪」 脇腹をくすぐっていた手がいつの間にかスカートのファスナーをおろして腰の辺りを彷徨っている。マッサージでもするかのような柔らかい手つきに意識がついていってなかった凜は、突然下着越しに敏感な箇所をギュッと押さえられてビクンと全身で跳ねてしまう。 「ヤッ、やだ……」 優しく揉み込むように動く朱鷺の手に翻弄されて凜が嫌だと言うと、朱鷺はピタッと手の動きを止める。 「ここは、イヤなんだ?」 あっさりと手を引くと代わりにキスを再開する。誘い込んだ凜の舌を甘噛みして歯の間で軽く擦ったり、反対に凜の口の中を存分に舐め味わったり。交わされる唾液がツーッと凜の頬を伝い落ちる。 「ここは、いい?」 長い時間をかけて深いキスをして、朱鷺はそっと唇を下にずらしていく。耳たぶを軽く口に含んだり舐めたりしながら同時に喉から首筋、鎖骨の辺りまでをそっと指先で辿る。くすぐったいのか、感じるのか凜が首を竦めるようにするのを追いかけて何度も指を往復させていく。 「ここも、平気だよね?」 耳元から首筋を下へと辿り、ブラウスと同時にブラジャーもはだけてしまうと、その下の微かな膨らみにそっと口づける。麓から頂上へと続く、今は仰向けているせいであるかないかの曲線を唇と舌とで辿っていく。頂点の赤い蕾をチュッと吸い上げて、また麓へと戻る。柔らかく弾力のある肉を舌で押し込むようにねぶって唇で肌に触れるか触れないかの所を掠めていく。 「ぁ……ん」 右の胸から左の胸に移る頃には凜が焦れたように下半身をくねらせる。無意識なのだろう、太腿を擦りあわせるように自らを刺激している。 「凜さん、腰が動いてる」 「あ……」 朱鷺に指摘されて驚いたように動きが止まり、羞恥に全身が真っ赤に染まる。 「可愛い」 もう一度朱鷺はチュッと凜の唇を吸い上げて、愛撫を再開する。触られて感じていることが恥ずかしいのか、真っ赤な顔を背けて目もギュッと閉じている。 「ここは、イヤなんだよね?」 言って朱鷺は少しずつ身体を下へとずらしながら、両脚の付け根の部分でフと横に軌道を修正する。太腿、膝、ふきらはぎと時間を掛けてゆっくりゆっくりと指と口とで刺激していきながら、凜が耐えられないように漏らす声を聞く。 「ん、っっくぅ」 足指をねっとりと舐るとくすぐったいのか指がジタバタと動くけれど、足首をしっかり支えているので感じすぎて凜がぐったりと身体の力を抜いてしまうまで朱鷺は許すつもりはない。 「そろそろ、正直に言う気になったかな?」 そっと脚をおろして、力の入らない膝を開いてしまう。内股をそっと指先だけで撫で上げるとそれだけで凜の下腹部に力が入った。 「ここ、どうして欲しいか言って、凜さん」 「あ……」 ここ、と言いながら指が掠めるようにそこに触れる。 「先刻はイヤって言ったけど……ホントにイヤなの?」 イヤなら触れないよ、と耳元に囁く。 「んっ」 もう既に限界で、触れなくてもそこが濡れそぼっているのがわかる。 「言って、凜さん……触って欲しい?」 「あ……」 懇願するように朱鷺が囁いても、恥ずかしい言葉を口にすることが出来ない凜は小さく頷く。 「ホントに? 触ってもいいんだね?」 それでも触れてこようとしない朱鷺は確信犯なのだ。凜が言葉にしないかぎり本当にこのままにしかねない。 「……やめ、ないで」 かすかに、小さく。凜は喉につかえるような吐息だけで、なんとかそれだけを口にする。 「ふふ、苛めすぎたかな?」 じゃあ、触ってあげるね、と唇に軽くキスを落として。そっと、凜の花瓣に朱鷺は指を滑らせていく。 「すごく濡れてるの、わかる?」 中心に触れるとヌル、と指が滑る。朱鷺の指が泉の縁をくすぐるように掻き混ぜると呼応して凜の躰がのたうつ。 「ぁあっ……んっ、は……ぁ」 朱鷺の女性らしい繊細な指が凜の官能をかき立てる。 「ねぇ、凜さん……どうして欲しいのか言って?」 「はっ……あぁっっ、そこっ……ヤァーーー!!」 ツプ、と突き立てられた指が中をグチュグチュと掻き混ぜるのを耐えていた凜が大きな声を放ったのは、朱鷺がキュッと小さな肉芽を抓ったからだ。身体の奥から涌いてくる重だるい程の快感も、その鋭い喜悦には較べることも出来ない。突き刺すような痛いような、しかしそれはまごう事なき愉悦で。 「ここが、いいんだね?」 「あっ、あっ……も、……助けっ」 くぅぅぅっと全身に力が入って、次の瞬間に崩れ落ちる。 コンコン、とノックの音がして、凜と、朱鷺も一瞬ビクッと固まる。 「凜? なんかすごい声がしたけど……大丈夫?」 「あっあっ、あのっ」 扉越しに友弥の声がするのへ、凜は動揺してしまってまともに応えることすらできない。 「ああ、友弥さん、大丈夫だよ。ちょっと私が凜さんを驚かせてしまったみたいで……」 先に立ち直った朱鷺がわざとらしいくらいに平坦な声を出すと、それでも友弥は安心したのか「それならいいんだけど」と言って扉の前から気配が遠ざかる。凜はと言えば朱鷺がとっさに差し出した服をあわてて身につけようとしているところだが、あわてているからか全然まともに着られていない。 「ふふ、少し驚いたね」 「……少しじゃありません! もうっもうっ! こういうの、禁止、です」 最後の方は少しだけ声のトーンが落ちる。 「そう? 私はまたしたいけどな。それに凜さんだけひとりでイッてしまうのはずるいよね」 「あぅぅ」 サラシの巻かれた胸を、まだイッたばかりで敏感になっている乳首にそっと押し当てられる。 「なんてね、ふふ。私は凜さんの可愛い顔が見られたから満足だよ」 「なっなっ!」 「まぁまぁ。それよりそろそろ夕食の準備をしなくてはいけないのではないのかな?」 豊かな乳房に凜の顔を押しつけるように抱きしめながら、ポンポンとその頭を撫でると凜の躰がゆっくりと朱鷺に甘えるようにもたれかかってくる。 「早くしないと、友弥さんが待ちくたびれてしまうね」 そう言いながら朱鷺は凜を抱き寄せた手を離そうとしない。 「……」 凜も、朱鷺の体温から離れがたいのかジッとしている。 それから二人が立ち上がったのは、それから何時間経った頃か、友弥が夕食が出来たよ〜と呼びに来るまでただそうして抱き合っていた。 「今はまだ、無理矢理でかまわないけれど……いつかは、凜さんから求めてくれるよね?」 そっと額に降りてきたキスに、凜はうつむいたまま、小さく頷いた。 fin |
よくばりサボテンっす。朱鷺が凜の許婚者?として初登場したときから朱鷺v凜はいい〜![]() |