世界を征服するための〜
 勇者の救出を国王に任せて、俺はひとり城へと戻ってきた。ルカートはせっかくのチャンスに勇者を倒しておかなかったことにお小言を言っていたけど、そんなのは関係ねぇ。俺が世界を征服した時に勇者がいなかったからだとか言わせないためにも、まして勇者にあの時命を助けられたからだとか言われたら、魔王としての面目がたたねぇだろうが。
 ズガーン、ドカーン!
「うおっ、なんだ? なにがあった!」
「魔王様、人間が……勇者が攻めて来ました!」
 ルカートの声に俺はベッドから飛び起きた。こんな朝っぱらから襲撃とはいい度胸じゃねぇか!
「ああっどうしたのですか、その姿は?」
 俺の姿を見るなり呆けたような声を出したのは城門を叩いていた勇者だ。
「あーん? 男に戻ったに決まってるじゃねぇか。俺は世界を征服するんだっつったろ」
「それはそうですが」
「それよりお前こそ1人でここまで乗り込んでくるたぁどういう了見だ?」
「私は自分の婚約者を迎えにくるのに軍勢を引き連れて来るような真似はいたしませんよ」
 嫌だなぁ、あはははは、と以前と全く変わらない脳天気な笑い声にピキキとこめかみが引き攣れるような気がする。
「そりゃ残念だったな、見ての通り俺はもう男に戻ったんだ。やり合うならこっちだろ?」
 帯剣をポンポンと叩いてみせると、勇者はまたもやニッコリ笑いやがる。
「それは、あれですか? 私の愛を試されているのですね?」
「は?」
「確かに最初は一目惚れでした、女性になったあなたの美しさの虜になったことは事実です……でもそれだけではないのですよ? 私はあなたと一緒に過ごすうちにどんどんあなた自身に惹かれていきました。決して外見だけであなたを愛したわけではないのです」
「……誰もそんなこと聞いてねぇ」
「それで、男になったあなたでも私が愛せるかを心配していらっしゃるのでしょう?」
「てめぇ、人の話を聞きやがれ」
 ニヤニヤと何を考えているかわからない笑みを浮かべながら、他人には理解できない毒電波を発信し続ける勇者にゲンナリと肩を落とす。
「愛するあなたの言葉なら、一言も漏らさず聞き取りましょう」
「……」
「どうぞ安心なさってくだい、私はあなたがあなたである限り、男とか女とか関係なく愛することを誓いましょう」
「……だから、誰もそんなこと言ってねぇってば」
「ああ、言葉だけでは信じられないとおっしゃる? 大丈夫です、ほらわかりますか?」
 勇者はそう言って肩を落とした俺の腰を抱き寄せようとする。
「うわっ! なにしてやがる」
 慌てて引き剥がそうとしたけれど、勇者の力は強くてしっかり腰をホールドされてしまったらそう簡単にはふりほどけない。
「ってか、なにでかくしてんだよっ勇者っ!」
「うーん、クラウスとは呼んでいただけませんか?」
「っ! そういう問題じゃねぇだろ? お前、おかしいと思わねぇのか? なぁ、俺は男なんだぜ? なんで、こここっこんなにしてんだよ?」
 押しつけられた腰に、あからさまに堅く膨張しているヤツの一部分がグリグリあたってるんだってば。
「愛……ですよ。私はあなたに言ったはずです。魔王であるとかないとか、男だとか女だとか関係なく、あなたはあなたなのだと」
「くっ……それは、あれか? あの時のことか?」
 スーパー鬼ごっこの終盤、俺を庇って重傷を負った勇者が、俺の腕の中で血まみれになりながら告げた昔話。
「ええ、そうです。あの時あなたは私に口づけを残していきました」
「くっ」
 確かに……あの時の俺は、なんか感傷的な気分になってた。色々なことが一度に起こって、勇者の身体が少しずつ冷たくなって……
「あなたは私に恋していますね?」
「……そんなことは……」
「私は、あなたを愛していますよ」
「あ……」
 勇者の口唇が俺の口を塞ぐ。
「男とか女とか、関係ありません」
 ゆっくりと口づけを深くされると、もう俺はなにも考えられなくなってしまう。
「私がいないと困るのでしょう?」
「んんっ」
「……私もあなたがいない人生なんて考えられません」
「あっ……ゆ、う」
「クラウス、です」
「クラ……ウス」
 潜り込んできた舌が歯の裏や軟口蓋をくすぐって、それから俺の舌に絡みつくとなにも考えることができなくなってしまう。
「あなたもこんなに……」
 クスリと笑って密着した下半身を揺すり立てられて、俺は自身も熱くなってしまっていることに気づかされる。
「あ……言う、な」
「もっと気持ちよくしてさしあげます、あなたの部屋に案内してくれますね?」
「冗談っ」
「ダメでしたら、しかたありません。それに、あなたは恥ずかしいことがお好きなようですし、フフフ、家臣に恥ずかしいところを見せておやりになるのも一興」
 そっそれこそ冗談じゃないぞっ! 真っ赤になって勇者から距離を取る。
「しっしかたないから、俺様の部屋に案内してやる」
 ありがたく思え、と捨て台詞のように言って勇者の顔を見ることもできずに踵を返したが、後ろからついてくる勇者は笑いを堪えているのが丸わかりで、きっと首筋も真っ赤になっているんだろう自らの正直さ加減にちょっとばかり凹まされた。
 いつルカートのヤツが飛び出してくるかと冷や冷やしたが、運良く部屋に着くまで誰とも行き会わなかった。
 バタン
 扉が閉まる音がやけに大きく響く。
「んっ」
 部屋に入るなり背後から勇者に抱きすくめられる。女だった時には身体ごと包み込まれるように大きく感じた勇者も、今はそれほどの体格差はない。
「やはり、男の身体になってもあなたは感じやすい」
 薄い布地の上から勇者の指がそっと胸を摘み上げる。
「あっやめっ……」
 女だった時にこいつに好き勝手されたことを身体が覚えているのか、あっという間に力が入らなくなって、しっかり抱きかかえられていないと自分で立っていることすら覚束なくなってしまう。
「ほら、もうこんなになってしまって……」
 ベッドにおろされたのはあくまでもゆっくりで、体格差のない俺をそんな風に扱うのにすら悔しさを感じてしまう。
「あ……もぅ、はや、くしろよ」
 服の下で堅く張り詰めたモノは解放をねだって蜜を零している。
「押さえつけられて、痛、いんだってば」
「可愛いですね、そんなに真っ赤になって。わかりました、すぐに解放してさしあげます」
 そう言ってクラウスはあっという間に俺を全裸にしてしまう。すっかり勃ちあがっている中心にも迷うことなく手を伸ばしてくる。
「ここを愛してあげるのは初めてですね」
「んっああっ」
 軽く上下に擦られたかと思うと、熱い粘膜に包まれる。
「うわっ……そんな、とこっ」
「ふふ、今更照れてるんですか? 男のコレをするのは流石に私も初めてですが、女の時にはさんざん舐めてあげたじゃないですか」
「んんんっっ、やっ、しゃべ……るな」
 先端に口をつけたままで喋られるとやばいんだってば! ビクビクと腰が跳ねるのを抑えることが出来ない。
「そうですか? ああ、ヌルヌルしたのが出てきましたよ。気持ちいいんですね」
 ジュプ……ジュプ、ヌプ
 全体を口に咥えて前後したかと思うと、舌先で敏感なところだけをつつき回される。
「あっもう……俺っ」
「イキそうですか? でも、もう少し我慢してくださいね?」
 クラウスはそう言って、咥えてた俺の欲望を離してしまう。
「やっ! もっと……もっと擦ってくれよ」
「そうしてさしあげたいのはやまやまですが……女性の身体と違って今のあなたは自分では濡れませんからね」
 あろうことか、両脚を抱え上げた恥ずかしい体勢でそのずっと後ろの窄まりに舌を這わせるじゃないか。
「やっ、ややや、やめろっ……そんなとこっ! ひっ」
「やめませんよ、あなたを傷つけたくはない」
 ピチャピチャと水音を立てる舌が時折グッと強く押しつけられて、今にも中に潜り込んできそうで怖い。怖いのに、なんだかそれだけじゃなくて気持ちい……いやいや、錯覚だから! そんなところ舐められて気持ちいいわけがないだろう!
「うわっ! ななな、なに?」
「そんなに怯えなくても……可愛らしい人だ。まだ指が1本挿っただけですよ」
「ゆ、指って……」
 俺の体内に潜り込んだ指が中を探るように蠢く。その異様な感覚を耐えているとズズっと出し入れが始まった。引き抜かれていく時の強烈な違和感に身体が震えてしまう。
「痛くは……なさそうですね?」
 先刻よりも広げられる感じがあって、指が増やされたのがわかる。痛くはない。
「気持ち……わりぃんだよっ、抜けっ……頼むから、抜いてっくれっっ」
「そうですか? おかしいですね」
 相変わらず人の話を聞きゃしねぇ。指はさらに増えて、あちこちを擦りながら中を広げていく。
「ああーーーーっっっ!」
「あ、ここがあなたのいいところでしたか」
 ヤツの指が襞の一箇所を擦った途端、頭の中が真っ白になるくらい強烈な快感が背筋を駆けのぼった。
「はっはぁ……はぁ、な……なにが、起こった?」
「心配しなくても、あなたのいいところを見つけましたから……もっと気持ちよくしてあげます」
「あ?」
 いつの間にか涙のにじんだ視界で、クラウスが浮かべている表情はよく見えないが声がとても優しいのはわかる。
「力を抜いていてくださいね」
「あっ! いっ痛っっ! あっあっあああーーーっ」
 圧倒的な質量が身体を割り開いていく恐怖に呑み込まれそうになったその時、クラウスの指が目元から頬を撫でる。
「大丈夫です、ラスティ愛しています」
「あっんんっ……」
 クラウスの熱い塊が俺の中で脈打っている。
「痛いですか?」
 そう言ってただ俺の頬を撫でてくれる。痛みがひくのを待ってくれているのか。
「い……たくは、ない。でも……気持ち悪い」
「ひどいな、でも痛くないのなら……動きますよ?」
 ゆっくり、ゆっくりと引いていって、もう一度ゆっくりと戻ってくる。
「あ……んっ、ああっ!」
「ここですね、気持ちいい、ですか?」
 指で擦られた時のピンポイントで与えられる過ぎるほどの感覚とは違う、しかしもっと力強く押しつけられるクラウスの雄に、嬌声を抑えられなくなる。
「やっ! んぅっ」
「本当に……あなたと言う人は……」
「ああっ、んっやっ! あっあっあああーーーっっ!」
 私を煽るのがうますぎます、と苦くクラウスが呟いたような気がする。そのまま激しく突き立てられて俺は一気に絶頂に押し上げられてしまう。熱いモノが広がって、意識を失った。



「というわけで、あなたがここを離れられないのなら、私が婿入りするということでよろしいですか?」
「……なにが、というわけ、なんだよ」
「そういえば、式はウェディングドレスを用意します? 男の姿でドレスというのも、倒錯的でいいかも知れませんね、フ、フフフ」
「……変態」
「なにか言いましたか?」
 変態、と言ったんだこのバカやろう。と心の中だけで悪態をつく。
「本当に、あなたは可愛いです」
「男に可愛いは褒め言葉じゃねっつの!」
「そんな真っ赤になって照れなくても……いいじゃないですか、婚約者同士なんですから」
「……」
 婚約なんかした覚えはない。ないが、しかし。どうやらこいつのこの強引なところも俺は嫌いになれないみたいだと……そろそろ自覚した方がいいんだろうな。



fin
「世界を征服するための、3つの方法」の、勇者×魔王サマのBLバージョンにしてみました(笑)
ギャルゲーのはずなのに、なんでBL女体がTRUE設定なのか? ともあれ、久々にキャラ萌激しいゲームでした。まともにBLのエンディングはさすがになさそうなので(笑) 捏造してみましたよ!2人の噛み合わない会話がすごく楽しかったです♪