白い恐怖 |
さめるような真っ白な部屋で僕は目を覚ます。白い朝陽の中…… ──今から考えるとたしかにあの日の白さは異様だったかも知れない── 窓からさしこんでくる、つきさす様に白い陽光に僕は目覚める。まだ混沌とした意識の中で思いを廻らす。そういえば今朝は小鳥の鳴き声がきこえないな……たまにはこんな静かな朝もいいもんだ。 ──そう、あの時の僕には現在の世界など判るはずもなかったんだ── それにしても、もう10時をまわってるじゃないか。いつもなら真由美が8時には起こしにくるのに……ベッドをおりながら考える。階下へ行くと、いつもの様に朝食の支度がしかけてある。 ──唯いつもと違うのは……真由美がいないことだった── なべは火にかかったままだし、まな板の上にはできかけのサラダが並んでいる。どこへ行ったんだろう? 大声で呼んでみる……が返事がない。どうも家の中にはいないらしい。外かな? でも、なべをかけたまま? コンロの火を消した後、庭に出てみた。 妻がいないだけではない。コリーもいない。しかも、小屋にはこの2・3日の間犬の居た気配さえ残っていない。そんな馬鹿な! たしかに昨日の朝散歩に連れて行って……晩には僕が餌をやったじゃないか。いったいどうしたっていうんだ!? とらえどころのない不安にかられて僕は家を飛び出した。……しずまりかえった街。生きたものの気配はすっかり街中から拭い去られていた。 いつもの子供たちのざわめき、すずめのさえずり……この街から音が、生命が消えた! ──真由美の名を叫び続けながら、もう僕は真由美のことを考えていなかった。そう、誰でもよかった。たった1匹の蝶でも。僕をこのどうしようもない不安と恐怖から救ってくれるものであれば!── どのくらい走りまわったろうか、もう声もでやしない。ああ、足がもつれる。ついに……誰も見つけられなかったな。ああ、意識が遠のいていく。……真由美! 叫んだつもりだった。声にはならない悲痛な想いだった。 気がつくと、僕は自分の部屋にいた。相変わらずの真っ白な部屋。白い陽光。 時計は7時57分をさしている。小鳥のさえずりも、階下でまな板をたたく音、コトコトと音をたてるなべも、なつかしい音のすべては僕の心になだれこんできた。 どうやらあれは夢だったらしい。その証拠に今、時計の針はあの忌まわしい日と同じ日付をさしているじゃないか。しかも今はいつもの時間だ。 階下へ…… 僕はもう躍り込むようにして駆け下りていった。あのエプロンの後ろ姿はまちがいなく愛しい妻・真由美だ。 心いっぱいに広がる安堵を押さえることは出来なかった。 僕の淹れる珈琲は彼女のお気に入りだった。幸福そうに笑みを浮かべ…… 今朝もそれにかわりはなかった。けれど何かおかしい。いつもとちがう。いや、違う気のせいだ。真由美はちゃんと僕の前にいるじゃないか。こんなことを考えるのはあんなおかしげな夢を見たせいだ。そう考えると僕は納得した。ひとりでにやにやしてる僕を彼女は不思議そうに首を傾けてほほえんでいた。 ──そう、あの時僕がもう少し落ち着いていればあの不自然さに気づいたはずだった── 僕の淹れた珈琲をいつもシュガーたっぷりのカフェ・オレにしなければ飲めなかった真由美。だが、あの女はブラックで飲み干したし、あの女の笑みは真由美の少女のようなほほえみとは似ても似つかないっていうのに! 僕の向かいに座った真由美は終始僕を見つめていた。不思議な笑みを浮かべて……そして僕が朝食を済ませると……ニヤっと嗤ったのだ。 ──もうそれは僕の愛しい妻の笑顔ではなかった── 砂糖のように甘くミルクのようにあたたかい彼女の笑顔は無表情な白さをたたえ、けれど幸福の絶頂にあったあの時の僕には真由美のそんな変化には気づくよしもなかった…… fin |
……いいわけのしようもないですね(;^_^A 中学の頃に書いたものだと思います(←いったい何年前!? というツッコミはなしで(笑)) あまりにも長い間更新がないので古いノートをひっぱりだしたらおもしろいように……駄作がいっぱい……どうせならということで原文のままです(笑) |