Change! 3
「す・な・おくぅん!」
 紀子が駅前の雑踏の中、遠くからすなおを認めて、大声で呼ぶ。
「待った?」
 跳ぶようにして抱きつくと、甘えた声で訊く。
「いや、今、来たところだから……」
 すなおは、未だ紀子が明るく擦り寄ってくるのに戸惑いと照れをおぼえる。紀子に言わせれば、そこが《かわいい》ところなのだが。
「ねぇねぇ、どこに行くの?」
「どこでもいいけど……、ノンちゃんは、どこに行きたい?」
 大きく肩や背中の開いたサマードレスを着た紀子をまぶしく見ながら、すなおが訊く。
 夏休みがはじまって1週間がたち、紀子が先生に逢えなくてくさっていたところに、当のみむら先生からの電話で呼び出されたのだ。
 さすがに学校のすぐ近くで、休み中に先生と生徒が2人きりで逢うのは(いくら女同士とはいえ)まずいので、顔の知られていないすなおとのデートになったのだ。
「あのねぇ、私、すなおくんの家に行ってみたいな♪」
「え、でも……」
「いつも学校の中でしか逢えないから……」
 ちょっと淋しそうに俯いた紀子の頭に、すなおは優しく手を置いた。


「へえ、こういうところに住んでるんだ」
 2DK程のマンションは、ほとんど家具などもないため、さほど散らかってはいない。
「ねぇねぇ、しよ♪」
 ひととおり部屋を見て回った紀子が、すなおの腕に抱きつく。
「え、あの……」
 逃げ腰になるすなおに、紀子は口をとがらせて抗議する。
「だって、もう、1週間も逢えなかったんだよ! 次だって、いつになるか!」
 追いつめられてベッドの縁に腰を下ろしてしまったすなおに、紀子は口づける。
「ん……」
 長いキスのあと、すなおの腕がそっと紀子の腰を抱く。
 そのまま躰を回転させて紀子をベッドに横たえると、優しくその全身にキスの雨を降らせる。
 みむらの時とはまた違ったソフトな責めに、紀子は陶然となる。
「す、なお……くっ」
「イクよ、ノンちゃん」
 ん、と紀子が頷くと、すなおは彼女の中に躰を押し入れた。



「ねぇ、すなおくん? ちょっと、思ったんだけどォ」
 シーツを裸の上に巻き付けただけの格好で紀子が首をかしげる。
「なんだい?」
 そんな様子もかわいいな、とすなおは思う。
「みむら先生と、すなおくんって、……どっちが本物なの?」
「本物って……」
 紀子の横に座ったすなおは、心の中でズッコケた。
「つまり、専門用語で言う主人格ってことなら、僕がそうかな」
 でも、どう見ても、みむらの方が《主》っぽいよね、と笑う。
「一応、戸籍上は、みむらは存在しないことになっちゃうんだけどね」
 でも、ちゃんと《いる》って僕も、ノンちゃんも、知ってるだろ? と眼で問う。
「あれ、っていうことはァ、戸籍ではすなおくん、男なんだ」
「いや、僕は、身体も男なんだけどね」
 それはそうだ、と紀子は肩を抱いてくれているすなおの胸に頭をもたれさせた。
「じゃあ、もしかしてェ」
 紀子はいたずらっぽく嗤った。
「こォんな仲になった責任って、すなお君とってくれる?」
 先に手を出したのは、僕じゃないんだけどなぁ、と心の中でつぶやいて、すなおは笑って応えた。
「みむらと二人でもいいなら、ね」