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「す・な・おくぅん!」 紀子が駅前の雑踏の中、遠くからすなおを認めて、大声で呼ぶ。 「待った?」 跳ぶようにして抱きつくと、甘えた声で訊く。 「いや、今、来たところだから……」 すなおは、未だ紀子が明るく擦り寄ってくるのに戸惑いと照れをおぼえる。紀子に言わせれば、そこが《かわいい》ところなのだが。 「ねぇねぇ、どこに行くの?」 「どこでもいいけど……、ノンちゃんは、どこに行きたい?」 大きく肩や背中の開いたサマードレスを着た紀子をまぶしく見ながら、すなおが訊く。 夏休みがはじまって1週間がたち、紀子が先生に逢えなくてくさっていたところに、当のみむら先生からの電話で呼び出されたのだ。 さすがに学校のすぐ近くで、休み中に先生と生徒が2人きりで逢うのは(いくら女同士とはいえ)まずいので、顔の知られていないすなおとのデートになったのだ。 「あのねぇ、私、すなおくんの家に行ってみたいな♪」 「え、でも……」 「いつも学校の中でしか逢えないから……」 ちょっと淋しそうに俯いた紀子の頭に、すなおは優しく手を置いた。 「へえ、こういうところに住んでるんだ」 2DK程のマンションは、ほとんど家具などもないため、さほど散らかってはいない。 「ねぇねぇ、しよ♪」 ひととおり部屋を見て回った紀子が、すなおの腕に抱きつく。 「え、あの……」 逃げ腰になるすなおに、紀子は口をとがらせて抗議する。 「だって、もう、1週間も逢えなかったんだよ! 次だって、いつになるか!」 追いつめられてベッドの縁に腰を下ろしてしまったすなおに、紀子は口づける。 「ん……」 長いキスのあと、すなおの腕がそっと紀子の腰を抱く。 そのまま躰を回転させて紀子をベッドに横たえると、優しくその全身にキスの雨を降らせる。 みむらの時とはまた違ったソフトな責めに、紀子は陶然となる。 「す、なお……くっ」 「イクよ、ノンちゃん」 ん、と紀子が頷くと、すなおは彼女の中に躰を押し入れた。 「ねぇ、すなおくん? ちょっと、思ったんだけどォ」 シーツを裸の上に巻き付けただけの格好で紀子が首をかしげる。 「なんだい?」 そんな様子もかわいいな、とすなおは思う。 「みむら先生と、すなおくんって、……どっちが本物なの?」 「本物って……」 紀子の横に座ったすなおは、心の中でズッコケた。 「つまり、専門用語で言う主人格ってことなら、僕がそうかな」 でも、どう見ても、みむらの方が《主》っぽいよね、と笑う。 「一応、戸籍上は、みむらは存在しないことになっちゃうんだけどね」 でも、ちゃんと《いる》って僕も、ノンちゃんも、知ってるだろ? と眼で問う。 「あれ、っていうことはァ、戸籍ではすなおくん、男なんだ」 「いや、僕は、身体も男なんだけどね」 それはそうだ、と紀子は肩を抱いてくれているすなおの胸に頭をもたれさせた。 「じゃあ、もしかしてェ」 紀子はいたずらっぽく嗤った。 「こォんな仲になった責任って、すなお君とってくれる?」 先に手を出したのは、僕じゃないんだけどなぁ、と心の中でつぶやいて、すなおは笑って応えた。 「みむらと二人でもいいなら、ね」 |