閉じた時間の中で
 晩秋のやわらかくあたたかな陽光がふりそそいでいる。けだるさが少女たちの心を支配する、そんな日だった。授業は心地よく耳にひびくが、頭には入ってこない。
「冴子……」
「ん、ああ」
 槙原冴子は親友の中村沙織に呼ばれて振り向くと、小さな紙片を渡された。それには少し小さめの字で、こう書かれていた。
「放課後、例の転入生が入寮するから出迎えにいこう?」
 沙織はここ瑞穂学院高等学校付属の寮長だ。瑞穂学院は女子校で、最近では珍しい全寮制の高校である。四季を彩る花々や、緑濃い木々に囲まれた独特の雰囲気は、まるで時代を間違ったかのように不思議な印象を与える。そして同じ敷地内には付属の中学とその寮も建っている。
 槙原冴子はもう一度、沙織からの手紙に目をおとした。「例の転入生」それは2〜3日前のことだった。寮長をしている同室の沙織が、転入生が来るというニュースを彼女にもたらした。時季はずれの転入生。
 沙織は寮長という特権でいち早くそのニュースを知り、ついでに写真まで手に入れてきていた。
 その転入生が今日、入寮するという。写真によれば、色のわりと白いきゃしゃなタイプの、いわゆる美少女で、部屋は自分たちの隣だ。冴子は、何となくそわそわしている自分を発見して驚いた。
 保科香奈、それが転入生の名前だった。
 写真ほどひ弱そうには見えない。背はどちらかと言えば低くて細身だ。だが全体的には気の強そうな、というか、おてんばな印象を受ける。
 おてんばと言えば沙織がまさにそうかも、と思い冴子は薄く笑った。わがままで、お人好しで、元気で、人に好かれる。一つ下のこの新人もそんなタイプだ。沙織は知ってて隣の部屋にこの子を入れたのかな? もしそうだとすれば、ずいぶん自分に似てきたことになるわね。
 隣の引っ越しを終わって、槙原冴子と中村沙織が自室に引き上げた時はもう10時を回っていた。
「どう、気がついた? 冴子」
 沙織がベッドの端に腰かけながら嗤った。
 冴子はどう応えるべきか一瞬考えてから、
「なにが?」
と、とぼけることにした。
 沙織は大きめのシャツに脚を引き入れて、にやりともう一度嗤った。
「とぼけたって、だめよ。お隣りさん、気に入ったでしょ?」
「どういう意味?」
 あくまでとぼける冴子。
「やだな、判ってるでしょ。冴子ったらいぢわるなんだから……隣に入った転入生、冴子の好みだろうと思って」
 少し赤くなりながら、沙織が言う。
「どうしてそう思ったの、沙織は」
 沙織をじらすのが楽しくてたまらない冴子は、わざといぢわるをする。「えっ、だって……」
 今度は、はっきりと耳たぶまで赤くなって沙織は口ごもった。赤面しているのを隠そうと、顔を脚の上に伏せている。
「私の好みがどうしたの?」
 再度言いながら冴子は思った。沙織がおてんばなら、自分は何だろう。決して人づきあいは良くない。典型的ないぢわるだ、と冴子は思う。でも、だからと言って人望が無いわけではない。鋭れるタイプとでも言うのだろうか、いつも人の上にいる。
「冴子の好み、転入生のタイプだと思ったのよ。だから、隣の部屋に入れたんだけど」
「ふーん。ぢゃあ、沙織は新しい刺激が欲しいってことかしら?」
 机から離れて、沙織の横に腰かける。
「そんなつもりじゃ……」
 沙織の言葉は冴子の口唇に飲み込まれた。
「沙織が友達になってあげればいいわ。タイプが似てるし」
「あ、そんな……」
 沙織は冴子の下で、でもそうなるだろうことを確信していた。
「どう? 少しは慣れた?」
 早速、中村沙織は隣の新人、保科香奈に声をかけた。
「あっ先輩! 昨日はありがとうございました! 手伝ってもらっちゃって」
 にこっ、とギ音でもともなうように笑んで、その少女は応えた。
 沙織は少々罪悪感がわかないでもなかったが、自分とタイプの似たこの明るい少女に好意を持った。「ふふ、寮長さんだからね。当然よ。それに隣の部屋だしね」
「そう、それなんですけど、私ご近所に配るようにって、田舎のお土産あるんですよ。もし良かったら、食べにいらっしゃいませんか?」
 無邪気な誘いに、どうするべきか一瞬迷ったが、沙織は結局、冴子には逆らえないのだ。明るくて常に人の中心にいる沙織が、冴子にだけは逆らうことができない。
 それに。沙織は否定しようとしたけれども、思い描いたのだ。冴子と、自分と、そして香奈の加わった、淫らな関係を。
 だから、沙織は応えた。
「ありがとう。じゃあ寄らせてもらうわ」と。

 沙織が自室に戻ると、机に向かっていた冴子が振り向いて、ニヤッと嗤った。
「香奈ちゃんの反応はどう?」
 沙織はそれだけで赤くなった。
「ま、まだよ! たった1日じゃ無理に決まってるでしょ!?」
 ふふ、冴子はうすく笑っている。沙織はますます赤くなった。冴子が自分を挑発していると判っているからだ。
「ゆっくり」
 冴子は立ち上がって沙織を抱き寄せる。
「時間をかけて」
 言いながら冴子の手は沙織の背中を撫で上げる。 沙織の身体から力がぬけるまで、キスだけを繰り返しながら、冴子はささやくように言う。
「むこうから、おちるまで」
「やさしく」
 すっかり陶然としている沙織を、冴子はそっとベッドに横たえる。
 慣れた手つきでシャツのボタンをはずす。
「……冴子」
 沙織が少しふるえた声で、不安を伝えようとする。 冴子は沙織にキスをしてやった。まだ、優しい感情が強い。沙織もそれで落ち着く。沙織の裸体をその手で操りながら、冴子はちょっとしたいたづらを思いついた。
 かるく、触れるか触れないかというタッチで沙織の背中、脇腹、胸、脚となぞっていく。沙織は微熱を帯びたように冴子の指先を感じている。決して、触れて欲しいところには触れてこないその指をもどかしく思いつつも、じらされているその事実に余計に感じてしまっている自分を恥じながら、沙織は冴子を求めた。
「まだよ」
 冴子が意地悪く言う。
 その一言で沙織は全身が火照ったように赤くなった。
 冴子はそれを確かめて、ねっとりとしたキスを沙織の右の耳たぶに与えた。そして肩口に何度か舌を往復させる。小さな乳首に歯をあて、脇腹にそって下へとおりる。脚のつけ根のところで中心に向かって口唇をはわせる。
「あっ」
 沙織が小さく言った。
 が、冴子のキスはそのまま内ももへと進んでしまう。ひざを立てさせて、ひざの裏、ふくらはぎ、そして足指を一本一本口に含んで舌をからませる。
「ああ」
 沙織のため息がもれる。
 全身をくまなく愛撫しながら、冴子は沙織のそこには指一本触れていない。それでも、沙織は冴子のくれる愛撫を待った。
 冴子はついに沙織の茂みへと指を進ませた。しかし肝心な部分には触れない。叢の周りをさぐり続ける。
「……冴子?」
 沙織が不満を訴える。
「なに?」
「……もう……」
 もう、いかせて欲しい。そう言いたかった。
「もう、何?」
 冴子はうすく嗤っている。じらしているのだ。わざと。
「あ」
 沙織は羞恥心で全身が火照るのを感じた。
「もう、何? 沙織、ちゃんと言わなきゃ判らないわ」
 冴子はあくまで沙織をじらす。
「ん……も、うっ」
 沙織の方がおれた。もう、我慢できない。
「もう、いっ……かせて……」
 冴子は嗤って沙織の顔をのぞき見た。
 沙織のひざの間に身体を入れて、冴子は沙織の望むところに指をはわせる。
 沙織が大きく喘ぐ。
 冴子がそこに舌を這わせる。まずは外陰部から中心へと。それから膨らんで芽を出している白い真珠に舌を押しつけるようにしてころがす。
 冴子の一つ一つの愛撫に沙織は喉をならす。もう声も出ない。
 冴子はそっと奥まで舌を差し込む。ゆっくりと出し入れを繰り返す。肉芽を強く吸うと沙織は鳴き声のような声をもらした。
 その間も冴子の指は胸や脇腹を刺激し続けている。 沙織の大きすぎない乳房は、やわらかい弾力をもって冴子の手を押し返す。おわんを伏せたような胸は、横になってもあまり流れずにきれいな形を保っている。
 冴子が沙織のもう一つの弱点でもある乳首をひねりあげると、沙織は我慢できずに冴子の頭に手をやる。
 それを合図に、冴子はいっそう激しく責め立てる。沙織の腰が大きくはねて絶頂を迎える。
「さえ、こ!」
 冴子は沙織を離すと、口もとを右腕でぬぐった。おびただしい量の愛液は飲み下されている。
 ゆっくりと沙織の側に横たわると、冴子はそっと口唇を重ねる。沙織は自分から舌を出して冴子の口を割った。自分の味でいっぱいの冴子の舌を吸う。「明日は、キスを教えてあげるといいわ、沙織」
 沙織は黙ってうなづいた。まだ身体は余韻にしびれている。

 続く