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「たっだいま〜」 聞こえた声に乃絵美が慌てて玄関に出ると菜織が笑いながら手を振っている。 「今日ハロウィンじゃん? かぼちゃのパイとかプリンとかいっぱい売ってたからさ」 たまにはと思って買って来ちゃった、とぶら下げた箱を差し出す。 「菜織ちゃんこんな時間に帰ってくるなんて珍しいね」 でもうれしい、と乃絵美がニッコリと笑って菜織をリビングへと促す。一緒に住んでいるとは言ってもルームシェアのようなモノで菜織がここに帰ってくるのはわずかな時間で帰ってきても寝るためだけに帰宅するような感じなので何日も顔すら合わさないことも珍しくはないため、こんな早い時間に菜織が顔を見せること自体が珍しい。 「久しぶりだな」 「まぁね」 一応戸籍上は夫婦と言うことになっている菜織と正樹の挨拶だ。もっとも実質をともなわない形だけの仮面夫婦と言うことになるか。 「たまにはあんたたちの顔もみたいじゃない?」 ってわけで、これお土産ね、と乃絵美がテーブルに置いた箱を正樹の前に差し出す。 「乃絵美、お茶淹れてきてよ。アッサムね」 「うん。お兄ちゃんも同じでいい?」 「ああ、頼む」 乃絵美がキッチンへ姿を消すのを見計らって正樹は菜織に向き直る。 「で、何を企んでるんだ?」 「やーねぇ、人聞きの悪い。たまには私だって乃絵の可愛い顔を見たくなるのよ」 確かに菜織は昔から乃絵美のことをお気に入りだったので嘘とばかりも言い切れない。がしかし。正樹もつきあいの浅い方ではない。なにか裏がありそうだ、とは気づいていた。 「お待たせ」 乃絵美が紅茶をそれぞれの前にセットするのを待って、菜織が正樹を促す。 「さ、開けて開けて♪」 「わかったよ」 菜織が口を割りそうにないと見て、正樹はとりあえず放っておくことにしてケーキの箱に手を伸ばす。 「うわっ」 飛び出してきたのは昔ながらのびっくり箱。 「あははっひっかかった、ひっかかった! Happy Halloween!」 大笑いしている菜織に、正樹と乃絵美は目を丸くするだけだ。 「本物はこっち」 足下においた手提げ袋からパイとプリンを取り出す。 「せっかくのハロウィンだしね! いたずらもしとかなくっちゃ」 「……そんなことだろうと思ったよ」 正樹が小さく溜息をつく。 「そんなことより、早く食べよ?」 ウキウキととりわける菜織を眺めて、正樹は乃絵美にそっと目配せをする。肩をすくめてテーブルに着いた。 「万節祭、つまり明日は聖者たちの日ってわけよね?」 菜織が二人に笑いかける。 「魔女や悪霊が跋扈する今夜は私たちの記念日にはちょうどいいわね」 ティーカップを口に寄せる。 「人々の目を逃れてってところがか?」 正樹が肩をすくめると、菜織がまた笑った。 「そうそう……って、人前でいちゃつかないように!」 乃絵美の肩を抱き寄せた正樹の頭を菜織がはたく。 二人の夜も楽しいけれど、こうやってみんなで集まるのも楽しいよね。 |
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いたずら。ごちそうも試す? |